泌尿器科の先生

次の日の朝、早朝には目が覚めてしまっていた。病室のベッドに付いていた毛布は、けっこうぺっちゃんこで薄っぺらい毛布だったので、これはきっと夜中に寒くなるだろうなと思っていた。看護師さんにも、毛布が薄いけど、夜中とか寒くならないですかと聞いてあったのだが、もし寒かったら、言ってくれればもう1枚毛布を持ってきてくれると言われていた。

しかし、夜中、一晩過ごしてみると、その薄っぺらい毛布1枚でもぜんぜん寒くなかった。理由は、真夜中になるとエアコンの吹き出し口から出てくる温風が強くなって、病室の中は、かなり暑いぐらいまでに暖まったからだった。

おかげで、ぐっすり眠れたかといえば、家に1人残してきてしまった愛猫のことを考えると、1人で寂しがっていないかなと気になり、2時間ぐらい置きには目が覚めてしまっていた。ちょうど真夜中に目が覚めたとき、ベッドの足元のほうでなんかゴソゴソやっている音に気づいた。

「あら、起こしちゃったかしら。ごめんなさいね」

ベッドの足元のところ、ちょうど点滴スタンドが置かれている辺りにしゃがんでいたのは、夜勤の看護師さんだった。何をしているのか頭を上げて覗きこむと、いっぱいになったおしっこの袋からおしっこをプラスチックのカップに移しているところだった。

「貯まったおしっこって、時々抜くんですか」

看護師さんが、おしっこの袋からおしっこを抜いているのをベッドの上から眺めながら聞いた。看護師さんは、そうしないと袋がいっぱいになってしまうからと教えてくれた。部屋が暗いし、足元のほうで作業しているので、どうやって看護師さんがおしっこを抜いているのかよく見えなかった。

それから、私は朝までぐっすりと眠ってしまった。といっても、朝の5時ぐらいには目が覚めてしまったのだったが。5時ぐらいになって、目が覚めてしまって、ちょうどトイレに行きたくなったので、もちろん小さい方はトイレに行かなくても、クダを通して勝手に袋の中に出ているので、大きい方に行きたくなったのであった。

点滴スタンドを小脇に転がしながら、トイレに行って戻ってくると、昨日の夜は、私とおばあちゃんぐらいしかウロウロしていなかった病院の廊下にかなりの患者さんたちが目を覚まして起き上がっていた。病院の患者さんたちって皆、朝が早いのかなと思った。なんとなく皆が起きているので、自分だけもう一回寝られなくなってしまい、エレベーターを降りていくと、1階の自販機でまた温かいミルクティーを買って、それを持って談話室に行き、談話室に置いてあった本を読みながら、ミルクティーを飲んでいた。

「あ、ここにいたんですか。どこに行ってしまったんだろうと思ってた」

パソコンをキャスター付き台車の上に載せて、ゴロゴロとやって来た看護師さんに声をかけられた。朝の身体チェックらしくて、体温計を脇に挟んでお熱を計った。さらに右腕に計測の機械を巻かれて、血圧を測った。最後に、人差し指をマニキュアを塗るときのケースみたいなところに挿して、体調を確認された。朝の身体チェックが終わると、私は自分の病室に戻った。

病室に戻ると、もう朝ごはんのプレートが来ていて、テーブルの上に載っていた。メインのおかずとご飯、お味噌汁に生卵、ヨーグルトが付いていた。病院の朝ごはんは、旅館みたいに和食なのかと思った。朝は、軽くパンを食べるぐらいしか食べないのだけど、その日の朝ごはんはとても美味しくて、まったく何も残さずに、きれいに全部食べつくしてしまっていた。

食べ終わった朝ごはんの食器も、忙しい看護師さんに運んでもらうのでなく、自分で病室の表の台車まで運んでいった。そこにいた看護師さんが食べ終わった私の朝ごはんの中身をチェックして、向かい側の病棟で食事の片付けをしていた看護師さんに、全部完食ですと大声で報告しているのを聞いて、ちょっと恥ずかしかったくらいだった。

食後、部屋のベッドの脇にあった洗面台で歯みがきをしてから、病院内を朝の散歩でもしてこようと点滴スタンドを転がしながら、病室を出た。廊下の掲示板に貼られている貼り紙をぼけっと眺めながら、入院棟の受付の前を通り過ぎると、そこにいた男性の先生が、私の朝の健康チェックでの数値を確認しながら、もう点滴を外しても良いよと言われた。そして、先生が側にいた看護師さんに声をかけると、看護師さんがやって来て、腕に付いていた点滴を抜いてくれて自由になった。わずか1日で体力も回復したのであろう。ちょっと嬉しくなった。

「そしたら、お風呂に入りましょう」

点滴が外れて、腕周りが自由になった私に先生は言った。どうせ、きょうには家に帰れるだろうし、家に帰ったらお風呂に入るから大丈夫ですと遠慮したのだが、先生は看護師にお風呂に入れてあげるように指示して、私は看護師に連れられて、お風呂場に移動させられた。

お風呂といっても、お風呂、バスタブは特に在るわけではなく、シャワーの設備が鏡の前に横に3個ぐらい並んでいるだけだった。看護師によると、昔は奥にお風呂もあったのだが、お風呂のあったところは、蓋をされて塞がれていた。お風呂で患者さんが事故に遭われたことがあるらしくて、それ以来、入浴時間は昼間だけになって、お風呂も無くなってシャワーだけになったのだそうだ。

看護師さんが一緒にくっついて、洗うのを手伝ってくれそうだったのだが、おしっこが自力で出ない以外は、ぜんぜん元気なので1人でお風呂に入れますと言って、看護師さんの手伝いは断ってしまった。それではと看護師さんは、おしっこの袋をビニールの袋で覆ってくれて、濡れないように鏡の前の台にでも置いて、シャワーを浴びるように説明してくれた。

1人になると、脱衣所で着ていた服をすべて脱いで、ビニールの袋で覆ってもらったおしっこの袋を片手に持って、シャワーの前に腰掛けた。おしっこの袋は、濡れないように鏡の前の台に置いて、シャワーからお湯を出して、ボディシャンプーで身体を洗った。髪も洗い終わってさっぱりしてシャワー室から出た。

「ありがとうございます、さっぱりしました」

使い終わったタオルやシャワー室の中をきれいに流してから、受付にいた先生と看護師さんに御礼を言って、自分の病室のベッドに戻った。

「午前中には、泌尿器科の先生に呼ばれると思うので、先生に呼ばれたら、泌尿器科の診察室まで一緒に行きましょう」

病室にやって来た看護師に声をかけられた。朝ごはんも食べたし、お風呂いやシャワーも浴びて、身体も髪もきれいさっぱりして、泌尿器科の先生にいつ呼ばれても大丈夫だった。

おしっこ袋の使い方につづく


泌尿器科の先生
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