プロローグ

私の名前は、今井祥恵。
中学1年生。東京は東松原に、父、母、それに2つ下の妹のゆみと暮らしている。

妹も中学1年生。
私も中学1年生。そう、妹は本来、年齢的には小学5年生なのだが、飛び級で2年進級を飛びこえて、姉である私と同学年の中学1年生になったのだった。

日本では、飛び級という制度は珍しいかもしれないが、アメリカでは普通で、勉強が良かったりすると、当たり前のように飛び級で進級されることがあった。

私と妹の通う武蔵野の学校では、アメリカ式の教育方針を取り込んでいて、飛び級も普通に導入されていた。そのおかげで、妹が飛び級で進級し、私は、妹と同じ学年になってしまった。

私は、小さい頃、母に兄弟がほしいとお願いして、それで母は妹を産んでくれた、らしかった。妹は、生まれつき身体が弱く、ずっと病院と自宅との往復暮らしだったため、幼稚園も、保育園も行っていない。

やっと学校に通えるぐらいの体力になったのは、小学校に入学するときだった。学校に行っている間、何かあったときに対応できるようにと、妹は、同じ私の通っていた武蔵野の学校に通うこととなった。身体が弱く、手の掛かる妹だったが、私は、姉として妹のことが好き、大切に思っていたので、いつも妹の手をつないで、学校まで一緒に通学していた。学校に着くと、妹とは学年も、クラスも違うので、放課後また一緒に家に帰るまでは、別々に別れて、授業を受けていた。

そんな妹が、私が中等部に進学するとき、妹も中等部に進学し、私と同じ学年になったのであった。妹のことは、可愛く大好きだったが、さすがに学校でも、妹と同学年になるというのは、なんとなく少し小っ恥ずかしいものだった。それでも、7年生が4クラスあるうちの私は、7年1組に配属され、妹は、7年4組に配属となったので、それぞれ教室が一番離れたクラスになったのは、私としては少しホッとしていた。

もっとも、妹は、学年だけでなくクラスも私と一緒になりたがってはいたが。

うちの学校は、小等部、中等部、高等部まで在って、小等部は1年~6年生、中等部は7~9年生、高等部は10~12年生となっていた。学年の名称も、アメリカ式の7thgrade(セブンスグレード)に習って、中学1年生ではなく、7年生だった。

うちの自宅は、東京は東松原の一戸建てだ。
東松原というのは、渋谷から吉祥寺までを結んでいる京王井の頭線のちょうど中間辺り、明大前駅より渋谷へ1つ手前の駅だ。急行も停まらない、各駅停車しか停まらない駅なので、あまり知っている人は少ないだろう。

東松原の駅前商店街を通り抜けた先の、少し行ったところに在る戸建て住宅だ。私の父、お父さんのお父さん、つまり、私のおじいちゃんが住んでいた家だそうだ。1階にリビング、ダイニングとかバスルーム、それにクリニックが在って、2階に父たち両親の寝室と私と妹の寝室が在った。

ほんとうは、両親は、2階に私と妹でそれぞれ別々の部屋を用意してくれていたのだが、甘ったれの妹が1人では寂しそうと、私と一緒の部屋を希望したので、本来、私1人の部屋になるはずだった部屋に、妹と2人で寝ている。本来、妹の部屋になるはずだった小部屋は空いており、私と父の書斎として使用していた。

私の父と母は、慶応の医学部を卒業し、2人とも医師免許も持っている歯科医師だ。だから、父は、実家であったこの土地に自宅以外に歯科クリニックも開業したのであった。クリニックは、歯科医師である父と歯科衛生士が3名で勤務していた。母は、たまにクリニックの仕事が忙しかったり、近所の母の友人が診察に来たときだけ、歯科医師として診察をしていた。それ以外は、私たちの子育てに専念してくれていた。

父のクリニックは、お世辞にも流行っているという感じではなかった。

駅前の岡部歯科のように、もっと東松原駅のすぐ近く、駅前の商店街の中にでも在れば、もっと流行っていたのかもしれないが、商店街を通り抜けた先にポツンとある父のクリニックでは、それも期待できそうもなかった。でも、当の父自身は、流行ってしまったら仕事が忙しくなって、ほかのことが出来なくなると、さほど気にしている様子もなかった。

「お母さん、行ってきます!」

私は、朝食を食べ終わると、母に声をかけてから自宅を出た。今日は、中等部の入学式の日だった。

入学式には、小等部の頃からの親友、百合子と美和2人と吉祥寺駅で待ち合わせて、一緒に参列しようと約束していたのだった。

「ちょっと待ってよ。ゆみが、まだ出かける準備出来ていないでしょう」

「だって、百合子たちと駅で待ち合わせしているんだけど」

出かけようとしていた私は、玄関先で母に呼び止められた。

「どうせ、入学式は、お母さんも車で来るんでしょう?だったら、ゆみは、お母さんが車で一緒に連れてきてよ」

母にそう言うと、私は家を飛び出した。

「仕方ないわね」

母は、待ち合わせ時間に遅れると慌てて出て行った私のことを見送っていた。

「お姉ちゃん、お待たせ」

遅れて、学校の準備を終えた妹が、玄関先にやって来た。

「お姉ちゃん、百合子お姉ちゃんたちと待ち合わせしているんですって。先に行ってしまったから、ゆみちゃんは、お母さんと一緒に車で学校に行きましょう」

「え!お母さんと一緒に学校へ行けるの!?」

母は、姉が自分を置いて先に行ってしまったことを聞いて、妹が大泣きすることを覚悟していたみたいだったが、意外にも、妹は、母と一緒に車で学校へ行けることに大喜びしていた。