大きな病院へ

やっと私の順番がやって来た。

「もう-!なんて時間かかるんだ!早くしろ!」

自分の順番を待っている間、ずっと早く診ろとイライラしながら待っていた・・わけではなかった。いや、そのぐらいイライラするぐらい元気があれば良かったのだが、もうお腹が痛くて、身体がフラフラで、そんなイライラする元気もぜんぜん残っていなかった。待っている時間、おそらく時間にして30分ぐらいのことだったのだろうが、その間、私はずっと奥の医務室のベッドで横になり、起き上がることも出来ずに眠ってしまっていた。

「あ-、確かにお腹が張っていますね」

順番がやって来て、奥のベッドで眠っている私のところにやって来た医師は、私のお腹の下半身辺りをを触りながらつぶやいていた。

「これは、ここでは診察できませんので、紹介状を渡しますから、すぐ近所の大きな病院に行って、そこで診てもらってください」

医師にそう言われた。私は、看護師から茶封筒に入った大きな病院への紹介状を受け取り、区役所の前の内科クリニックから追い出された。このまま大きな病院へ行けと言われても、もうお腹が苦しくて歩けそうもない。

「大きな病院ってどちらですか?」

私は、なるだけ遠くではないといいなと思いながら、受付の看護師に聞いた。

「心配しなくても大丈夫ですよ」

看護師は、そんな不安な私の気持ちを察してくれているのか親切に答えた。看護師に連れられて、上がってきたエレベーターに乗ると、1階の入り口のところに降ろされた。そこの脇にある駐車場に1台のタクシーが停まって待機していた。病院の人が予め呼んでくれていたらしい。

「病院は、ここから車で10分もしないところですから」

私は、タクシーに乗せられて走り出した。と思ったら、もう病院についていた。その大きい病院というのは、駅前の、よく乗る電車の中からもいつも見ている道路と道路の間に挟まった三角形の敷地に建てられた三角形の病院だった。実際には建物自体は四角い形をしているのだが、道路と道路に挟まれた三角の角っこの敷地に建っているため、なんとなく建物自体も三角形の建物にみえる病院だった。

タクシーから降りると、既に区役所の前の内科クリニックから連絡を受けていたのだろう、看護師が1人立って待っていて、緊急外来の医務室の中に案内された。そこの医務室のベッドに寝かされると、すごく若い医師の先生に声をかけられた。

「お腹がすごく張っている。CTでレントゲンを撮ってみましょう」

若い医師の指示を受けて、若い看護師がCTの手配のために医務室を出て行く。若い看護師が部屋を出て行くと、医務室のベッドの上で仰向けに寝て、真上の真っ白の天井を眺めている私の耳に、奥のデスクに設置してある電話で話している若い医師の声が聞こえた。

「そうですね、単位が足りなくなってしまうかもしれないですよね。次の研修も受けますので・・」

おそらくその若い医師は、大学の研修医かなにかなのだろう。電話の相手と話では、しきりに自分の授業の単位のことについて気にしていた。お医者さんになるために、すごい頑張って勉強しているんだな、そんなことを考えながら、ベッドに寝ていると、CTの手配が済んだので在ろう、部屋を出て行った看護師が戻ってきた。

「これからレントゲンを撮りますからね」

看護師に言われて、私はベッドに寝かされたまま、ベッドのタイヤのストッパーを外されベッド毎、CT室まで移動させられた。ベッドは仰向けに寝かされている私毎、移動して医務室の外、廊下を進んでいく。仰向けの私には、移動していく真っ白の天井しか見えていない。扉の開く音がしてエレベーターに乗せられ、扉が閉まり、また開いてベッドは廊下を進んでいく。おそらくCT室の扉だろう。扉が開いて、中に入ると、CT用のベッドの真横に、私が仰向けに寝ているベッドは並べられた。

「レントゲンを撮るので、隣のベッドに移動しますね」

看護師は、私の寝ているベッドと隣のベッドの間にスライドと呼ばれる板を敷いて、その上を転がすようにして私の身体を移動させようとしていた。自分で立ち上がって自力で隣のベッドに移動するぐらいのことは出来る。なんとなくこのまま看護師に持ち上げられて移動させられたのでは、まるで自分が重症患者になってしまうような気がして、私は自ら自分の力でベッドから起き上がると、隣のベッドに必死の思いで移動した。

「あ、ちゃんと自分で移動できますか」

自分でベッド間を移動した私の姿をみて、看護師がかけてくれたその言葉を聞いて、なんとなくあなたは重症患者ではない、ちゃんと自分で出来ますねと看護師に褒めてもらえた気がして嬉しかった。CT用のベッドに横になると、ベッドは丸いCTの中に挿入されて身体の中を撮影された。

「はい、息を止めて下さい。吸って、吐いて・・」

部屋の外からマイクの音を通して聞こえる、指示されるレントゲン技師の声にあわせて深呼吸する。CTの装置が動いて、レントゲン撮影が終わると、また来るときに乗せられていたベッドに移動して、看護師にベッドを押されてCT室を出ると、また廊下を通ってさっきまでいた緊急外来の医務室に戻ってきた。そこでは、さっきの若い医師が待っていて、私の体内を撮影したレントゲン写真を手に持っていた。そぼレントゲン写真を私に見せると、

「ほら、こんなに大きくなっているよ」

若い医師は、私に告げた。

前立腺肥大症につづく


大きな病院へ
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