夜の避難スポット

正英たちは、避難スポットの後端に停車している自分たちのトラックの中で就寝していた。運転席と助手席の後部に付いている平らなベッドに、正英、お母さん、お婆ちゃんの3人で眠っていた。3人で寝るには、少々狭いのだが、それでも、毎晩ここで寝ていると、狭さにもだいぶ慣れてきていた。

祥恵たちは、避難スポットの前端に停車している自分たちのキャンピングカーの中にいた。キャンピングカーなので、後ろの正英たちのトラックに比べると、ぜんぜん生活するには暮らしやすかった。

中央のダイニングスペースで、皆はテレビを視ながら、1人ずつ順番に、すぐ後ろに付いているトイレ兼シャワールームで、お風呂代わりのシャワーを浴びてから眠りにつく。お父さんと祥恵は、それぞれ1人ずつシャワーを浴びていたが、ゆみは、お母さんと2人で狭いシャワールームの中でシャワーを浴びていた。

「こっちにいらっしゃい」

お母さんは、着ていた服を全部脱ぐと、シャワーの温度をちょうどいい熱さに調整してから、やはり、シャワーを浴びるために、着ていた服を全部脱ぎ終わったゆみのことを呼ぶ。

「熱くない?」

「うん」

ゆみは、お母さんの腕の中で、シャワーを浴びながら頷いた。

「そろそろ出ようか」

身体や髪を洗い終わると、ゆみも、お母さんもパジャマを着て、シャワールームから出てくる。既に、祥恵も、お父さんもシャワーから上がって、キャンピングカー後部の寝室に入ってしまっていて、ダイニングスペースの電気は消され、真っ暗だった。

キッチンの冷蔵庫から、お茶のボトルを出して、コップに注いで、飲んだ後、2人も後部のベッドルームに移動した。

「あら、まだ起きていたの?」

「うん」

フラットなベッドスペースには、皆の分のシーツに毛布も敷かれて、そこの上に、祥恵とお父さんが寝転がっていた。お父さんは新聞を、祥恵は小説の本を、横になって読んでいた。

「ああ、寝るのだったら、新聞は畳んでくださいね」

お母さんは、新聞を手に横になっていたお父さんが、半分目をつぶって眠っていることに気づかされた。

「あ、いや、新聞を読んでいたところだ」

そうお母さんに返事したお父さんの目は、明らかに半分ぐらい閉じられていて、眠っている目をしていた。

「ゆみ、寝ましょうか」

ゆみは、お母さんに言われて、お父さんと祥恵の横になっている真ん中、祥恵よりの場所に横になった。お母さんが、端っこのお父さんとゆみの間に、横になった。端から、お父さん、お母さん、ゆみ、祥恵の順番でいつも眠っているのだ。

本来は、このベッドスペースも2人用なのだが、そこに4人で横になって眠っているのだった。

ゆみは、横になると、自分の分の毛布を掛けたが、さらに横にいるお母さんの掛けている毛布の中にも潜り込んできた。

「寒いの?」

お母さんに聞かれて、ゆみは首を横に振った。とくに寒かったわけではないが、なんとなくお母さんのすぐ近くに行って、一緒の毛布を掛けたかったのだった。

「電気、消すよ」

「はーい、お願いします」

お母さんが、ベッドの上に立ち上がっている祥恵に返事をすると、祥恵は、ベッドスペースに付いている電気のスイッチを消した。部屋の中は、真っ暗になった。

お父さんは、手元に持っていた新聞を片づけた。祥恵も、途中まで読んでいた小説の本を片づけると、ゆみの横のベッドスペースに横になった。本来2人用のベッドスペースに、いくら子ども2人とはいえ、4人で横になると、けっこう狭い。皆は、ベッドスペースにお互いくっつきあって、横になることとなるのであった。

「お母さん、もっとこっちに来て」

ゆみは、自分と一緒の毛布に寝ているお母さんにお願いした。

「寒いの?」

「寒くはない。寒くないけど、なんとなく皆でくっついて寝たいの」

ゆみは、お母さんに答えた。

「それじゃ、私もくっついてあげようか?」

お母さんと反対側の隣りにいる祥恵も、ゆみの側に近づいてきてくれた。祥恵は、自分の掛けている毛布をゆみの上にも被せた。ゆみは、自分の毛布以外に、お母さんと祥恵の毛布も掛けることとなっていた。

「お父さんも近づこうか」

ゆみの隣の隣りにいるお父さんも、ゆみの方を向いて、横になった。さすがに、隣の隣りのお父さんの毛布までは、ゆみのところにまでたどり着けなかったが、お父さんの毛布は、隣のお母さんの身体の上にも掛かっていた。

電気が消されて、真っ暗なキャンピングカーの中、4人は後部ベッドスペースにて、横になって毛布を掛けて眠っていた。

「ゆみ、もっとくっついてあげるよ」

祥恵は、ゆみの方に向いて、自分の身体をぎゅっと、ゆみの身体に押しつけていた。お父さんも、反対側から、ゆみの方に身体を押しつけている。お父さんが押すので、間に寝ているお母さんの身体が、ゆみの方にさらに近づいてきていた。

「ほらほら」

祥恵が、おもしろがって、さらに、ゆみの方に向かって、自分の身体を押しつけていた。本当ならば、ぎゅーぎゅー押しつけられて嫌がりそうなのに、ゆみは、祥恵やお父さんに押されて、嬉しそうにしていた。

「へんな子ね」

祥恵は、そんなゆみの頭を優しく撫でるのであった。

「どうしたの、寝られないの」

横で目を開けたまま、起きていたゆみに、お母さんが声をかけた。

「うん、なんか嬉しそうの」

ゆみは、祥恵とお母さんに両サイドから囲まれて、さらに、お母さんの向こうからは、お父さんも囲んでくれていることを噛みしめながら、お母さんに返事した。

「そうなの」

お母さんは、そんなゆみの様子に微笑んでいた。

「なんだか、皆で、こうして1つのベッドに横になって、一緒に寝ているとなんとなく気持ちいいな」

ゆみは、お母さんに答えた。そんなゆみの頭を黙って、ゆっくりと優しく撫でているお母さんだった。

「お母さん、覚えている?地上で、ガミラスの宇宙船と動物たちのことを救いに行っていたとき、いつも夜は、誰か知らない人の家にお泊まりしていたの。あのときも、寝室のベッドには寝ないので、リビングのソファを広げて、そこに皆で並んで横になって寝ていたよね」

ゆみは、言った。

「家の鍵は、ぜんぶしっかり戸締まりしていたから、寝ているときに、誰かが入ってくるなんてことは無いってわかっていたけど、なんとなく皆で、くっつきあって、1つのベッドで、1つの毛布に包まって寝ていると良かったな」

「そうね」

「寒いとか、熱いとかじゃないんだけど、なんとなく皆でくっついて寝ていると、良い気持ちになれたの」

ゆみは、お母さんに話した。

祥恵は、すぐ真横で横になって、ゆみの言うことを聞いていただけだったが、なんとなく、ゆみの言う気持ちがわかった。

家族4人で、真っ暗な中、狭いキャンピングカーのベッドスペース上で、仲良く横になって眠っていると、なんともいえない、ほんわかした気持ちになってくるのだった。

お父さん、お母さん、祥恵に、ゆみだけでくっついているのでも、なんともいえない素敵な気持ちになってくるのに、さらに、ゆみのお腹の上には、猫の美奈ちゃん、まりちゃんに、ギズちゃんまでもが横になっていた。祥恵のお腹の上には、犬のメロディが顎を乗せて、眠っていた。

「確かに、暑いとか、寒いじゃないのよね。なんとなく、くっついて寝ていると良い気持ちになれるのよね」

祥恵は、ゆみの方を向いて、つぶやいていた。が、当のゆみは、もう既に、ぐっすりと眠ってしまっていた。

「寝ちゃったか・・」

祥恵は、ゆみの向こうに寝ているお母さんと目が合ってしまい、2人は、ゆみの寝姿を眺めながら、お互いに微笑み合っていた。

「皆、寝たのか」

お父さんは、小さな声で、すぐ横に眠っているお母さんに声をかけると、そっと立ち上がって、静かにベッドルームの扉を開け、トイレに立っていた。

せっかく、皆が仲良く狭いベッドスペースに横になって、毛布を掛けてくっつきあっているというのに、誰かが途中で、立ってしまうと、そのなんともいえないほんわかした気持ちも冷めてしまうものだった。

「ただいま」

お父さんが、トイレから戻ってきて、静かにベッドルームの扉を閉めて、再びベッドに横になる。

途中、トイレに立ったことで中断していたほんわかした気持ちが、また並んでくっつきあって寝ている皆の気持ちの中に戻ってくる。

「なんか、ほんわかする・・」

祥恵は、自分のお腹の上に顎を乗せて、眠っているメロディの頭を優しく撫でてあげながら、小声でつぶやく。

その隣では、一番最初の言い出しっぺのゆみが、既に毛布を被って、ぐっすりと眠ってしまっていた。

「さてと、いよいよ明日はオーストラリア入りだな」

「到着できそうなんですか?」

「ああ」

お父さんは、横に眠っているお母さんに小声で答えていた。


夜の避難スポット
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