危険がやってきた

学校の授業が終わった。

正英のお母さんは、トラックに乗って配達に出てしまっているので、正英も祥恵たちと一緒に、キャンピングカーの中で学校の授業を受けていた。

「どうするの?」

授業が終わって、キャンピングカーの表に出ようとしていた正英に、後ろから祥恵が声をかけた。

「どこって、帰ろうかと」

「帰るって、まだトラック戻ってきていないでしょう。お母さん、まだ配達中じゃないの」

「まあ、そうだけど。適当に、どこかで遊んでこようかと」

「そうなんだ。じゃ、私も行こうかな」

祥恵は、キャンピングカーの表で靴を履いていた。

「祥恵、出かけるの?」

祥恵が、正英と一緒に出掛けようとしていると、お母さんが祥恵に言った。

「うん」

「出かけるんだったら、ゆみも一緒に連れていってあげてよ。誰かが一緒に出掛けないと、ゆみって、すぐ家の中に居っぱなしになちっちゃうんだから」

お母さんは、祥恵にお願いした。ゆみは、生まれたときから身体が弱かったため、お母さんとよく家にいることが多かった。ガミラスの宇宙船と行動したことで、だいぶ身体が丈夫になった今でも、外よりも中で過ごすことが多かった。

「ゆみ、お出で」

ゆみは、祥恵に呼ばれて、表に出た。

「で、どこに行こうか」

「俺の行きたいところでも良いか?」

「いいよ。どこに行きたいの?」

祥恵が、正英に聞いたが、正英は祥恵の質問には答えずに、歩き出していた。

「どこに行くの?」

「さあ?」

祥恵とゆみは、黙って、正英の後についていった。

「ね、もしかして、恐竜ランドに行こうとしている?」

正英の進んでいく道をついていきながら、祥恵は行き場所に気づいたようだった。

「そう」

正英は、祥恵が気づいてくれたことに、嬉しそうに答えた。

「だって、なんだか恐竜ランドって、気にならないか?」

「まあね」

「恐竜なんて、まさかいないとは思うけど・・。どんな爬虫類がいるのかどうかは気にならないか」

「そうね」

「でも、もしかしたら本当に、恐竜がいるのかもしれないぜ」

「そんなわけないでしょう」

祥恵は、正英の言葉に、鼻で笑っていた。

「そんなわけないかもしれないぞ。だって、ここはオーストラリアだろう。オーストラリアといえば、インディージョーンズとかクロコダイルダンディだぜ。なんとなく恐竜がいてもおかしくないとは思わないか」

「映画の見過ぎよ」

祥恵は、正英の言葉を笑っていた。

「とりあえず、そう遠くないんだから、行ってみるだけ、行ってみようぜ」

「いいけど」

昨日、コアラたちの保護施設で聞いた話では、市街を出て、それほど遠くないところに、恐竜ランドは建設されているらしかった。

「まだまだ、ぜんぜん建設中じゃない」

祥恵は、恐竜ランド建設中の看板が立っている壁の前で、正英に言った。建設現場は、高い壁で囲まれていて、中がぜんぜん見えなかった。

「あっちから中が見えそうだよ」

正英は、壁が途切れている部分を見つけて、そっちへ走っていった。祥恵も、ゆみの手を引いて、そっちに行ってみる。

「恐竜!」

ゆみが高い壁の上から顔を出している恐竜の顔を見上げながら、祥恵に言った。確かに、高い壁の上から、ひょっこり顔を出しているのは、恐竜の顔だった。

「本当だ、恐竜ね」

祥恵も、壁の上から覗いている恐竜の顔を見て、つぶやいた。

「でも、あれは、完全に作り物の恐竜だよな」

正英も、壁の上からこっちを見ている恐竜の顔に気づいて言った。

「それは、当たり前でしょう。本物の恐竜だったら大変よ」

祥恵は、正英に答えた。

「本物は、あっちにいるよ」

ゆみが、恐竜ランドの中央を指さして、祥恵に言った。

「えっ!?」

祥恵も、恐竜ランドの中を覗き込むと、確かに、恐竜ランド中央の草原には、何匹もの恐竜がうろうろと歩き回っていた。

「え、どういうこと?」

「やっぱ、本物の恐竜がいるじゃん。さすが、インディージョーンズのオーストラリアの国だけあるよな」

「そうだね」

一瞬、祥恵は、正英に答えてから、

「そんなわけないじゃん。いくらインディージョーンズの、オーストラリアだからって恐竜はいないでしょう」

「じゃ、あれはなによ」

正英が、恐竜ランドの中で、うろうろ動き回っている恐竜たちを指さしながら、祥恵に聞いた。

「さあ、なんだろうね」

祥恵は答えた。

「なんかさ、もう少し近寄ってみようよ」

「そんなに、中に入ったら怒られないかな」

「でも、ここにずっといても、あの恐竜が本物かどうか確かめられないだろう」

そう言うと、正英はどんどん恐竜ランドの中に入ってしまっていた。仕方なく、祥恵も、ゆみの手を引いて、正英の後を追って、恐竜ランドの中へと入っていった。

「あれ、生きているの?」

「わからない」

祥恵は、ゆみに答えた。

3人は、恐竜のすぐ近くまでやって来ていた。恐竜の方は、背の小さい3人には気づいていないのか、3人には全く無関心に草原の中を歩き回っていた。

「本物かな・・」

動いている恐竜たちは、どう見ても機械仕掛けで動いている感じは無かった。本物の生き物ような動きだった。

「これって、爬虫類とかじゃなくて、本当に恐竜ランドなんじゃないのか」

正英が、2人に言った。

祥恵は、正英のその言葉に、そんなわけないじゃんと言いたかったのだが、目の前を動いている恐竜の姿を見てしまうと、そう言い出せなくなってしまっていた。

「あれ、なんだろう」

今度は、正英ではなく、ゆみが恐竜たちのいるところから少し離れたところに建っている小屋を見つけて、そちらに向かって、歩き出していた。仕方なく、ゆみの後ろについて、祥恵と正英も小屋に向かって歩いていた。

ギイーン

小屋の入り口のドアを開けて、中に入った。

「卵だ!」

小屋の中、床には一面、干し草が敷かれていて、その干し草の上には、たくさんの卵が置かれていた。

「何の卵だろう」

卵には、緑色とか黒と白のブチブチが付いた卵が、たくさんあった。卵の中には、既に割れている卵もあって、それらの卵から生まれたのであろう雛が、卵の周りを歩き回っていた。

雛たちは、鶏のひよこでは無かった。2本足の爬虫類のような生き物だった。

「恐竜の赤ちゃん」

「まさか・・」

祥恵は、ゆみに言ったが、

「いや、確かに、恐竜の赤ちゃんみたいだな」

正英も、祥恵に言った。

「恐竜の赤ちゃん。本当に?」

「それっぽいよ」

正英は、祥恵に大きく頷いた。

もう1個、ちょうど祥恵たちの見ている目の前で、卵にヒビが入った。中から小さな指が出てきて、卵の殻を割ると、出てきたのは、明らかに4つ足の恐竜の赤ちゃんだった。

「これって、本物の恐竜ってことなの」

「そうみたいね」

祥恵は、ゆみに答えた。

「え、どういうこと?」

「ここにいる赤ちゃんもだけど、表に動き回っている恐竜も、本物の恐竜ってことなんだろうな」

正英は、祥恵に話していた。

「本物の恐竜なんているんだね」

「そんな話、聞いたことないけどな」

正英は、祥恵に話していた。

「恐竜の卵、初めて見たね」

「卵だけじゃなく、本物の恐竜も初めて見た」

「うん、そうだね」

祥恵は、正英に返事した。

「誰か来る」

ゆみは言った。小屋の外から誰かがこちらにやって来る足音が聞こえてきていた。

「先生、また生まれていますよ」

「大成功だな」

小屋に入ってきたのは、白衣の50代ぐらいの研究者らしい男性ともう1人は、その助手だろうか若い男性だった。

「うん。これはトリケラトプスの子どもだな」

「こっちのは、鳥類にあたる恐竜でしょうかね」

2人は、話し合っていた。

「この調子で、全員無事生まれてくれれば、恐竜ランドのオープンまでには、十分な数の恐竜が育ちますね」

「気を抜くなよ。なにしろ、恐竜なんて誕生させたのは、われわれ急流ランドが世界初だからな。ここから先、恐竜を育てるのだって、まだ誰も経験が無いことだからな」

「はい」

若い男性は、答えた。

「しかし、先生はすごいですね。よく恐竜の遺伝子を化石の中から見つけ出して、それを増殖させて、恐竜を誕生させましたね」

「まあ、理論上は、大したことではないよ」

先生は、若い男性に答えていた。

「まあ、それはそうでしょうけど。理論上では、成立してても、なかなか実際には、そこから生きた恐竜を誕生させられませんよ」

「コツさえつかめれば、大丈夫だ」

「そうですね。最初の1匹目が誕生してからは、けっこうとんとん拍子に生まれていますものね」

「ああ」

2人は、小屋の中にいた恐竜の赤ちゃんたちの様子を確認し終わると、小屋を出て行ってしまった。

「聞いた?」

「遺伝子操作して、恐竜を誕生させたって」

「本当に、そんなドラマみたいなこと出来るんだね」

祥恵と正英は、隠れていた干し草の中から出てきて、話していた。

「ちょっと、ゆみ。何をやっているの」

祥恵は、ゆみに声をかけた。ゆみは、恐竜の赤ちゃんの側に行って、手を出していた。

「ちょっと、ゆみ。やめなさい!危ないでしょう。噛まれたらどうする気なの?」

「大丈夫だよ、かわいいよ」

ゆみは、生まれたばかりの恐竜の赤ちゃんを、自分の手の上に乗せて、祥恵のほうに見せた。

「恐竜も動物なのかな」

すっかり、ゆみになついている恐竜の赤ちゃんを見ながら、祥恵は正英に質問した。

「さあ?」

正英は、祥恵に自分の肩をすくめてみせた。

「なんかさ、表が騒がしくない?」

「確かに」

小屋の表の様子が騒がしくなっていた。なんか作業員たちが大声をあげていた。祥恵と正英は、そっと小屋の扉を細く開けて、表を覗いていた。

「恐竜が暴れてる」

表で動き回っていた恐竜たちが、なんだか大暴れしていて、それを必死になって、建設用のクレーンなどで作業員が制止しようとしていた。

「おい、そっちに行ったぞ!クレーンで取り押さえろ!」

現場監督が、クレーンの作業員に指示を飛ばしていた。

「だめだ、クレーンなんかで抑えたら、恐竜が傷つく」

さっき、小屋に入ってきた研究者の男性が、クレーンに指示を飛ばしていた現場監督のことを慌てて制止していた。

「しかし、どうやって恐竜を止めたらいいのですか」

「そうだな。食料で落ち着かせなさい」

現場監督は、クレーンに肉をぶら下げて、興奮して暴れまわっている恐竜たちに与えた。すると、恐竜たちは、食事に夢中になって、静かになった。

「良かったね。静かに、落ち着いて」

「ああ」

小屋の陰から覗いていた祥恵と正英も安心して、話していた。

「あたしも、あっちの恐竜も撫でてみたい」

祥恵の脇から、小屋の外を覗いたゆみが、祥恵に言った。

「やめなさいよ。あっちの恐竜は、手に乗せている恐竜の赤ちゃんのように小さくないのだから」

祥恵は、恐竜の赤ちゃんを抱っこしているゆみに言った。恐竜の赤ちゃんは、もうすっかり、ゆみに慣れてしまっていた。

「今のうちに帰ろうか」

「そうだね」

祥恵が正英に言うと、2人は、ゆみを連れて小屋の外に出た。作業員たちは、恐竜たちに夢中になっていて、こちらには全く気付いていなかった。

「よし、行こう」

3人は、小屋の外に出て、背の高い草原の茂みの中に身を低くしながら、恐竜ランドの表に向かって走った。と、走っていく3人の背後から、誰かに肩を叩かれた。

「はい?」

祥恵が振り向くと、恐竜が1匹立っていた。

「あ、恐竜さん」

ゆみが嬉しそうに、恐竜に手を差し出した。ゆみの差し出した手に、恐竜は甘えてきた。

「え、この恐竜・・」

祥恵と正英は、その恐竜が口にくわえているものを見て、絶句してしまっていた。恐竜が口にくわえていたのは、それは人間の死体だった。


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