前立腺肥大症

「ほら、こんなに大きくなっているよ」

若い医師は、私に告げた。若い医師に見せられた私のレントゲン写真には、何かはよくわからないが大きな白い塊が写っていた。それは前立腺と呼ばれるものだそうだ。それが大きくなって巨大化しているために、そいつがおしっこの出口を塞いでしまっていて、おしっこが出れないのだそうだ。そのために、お腹の中に貯まってしまっているおしっこがお腹を張らせていて、お腹が苦しいのだという。

「クダを通して、お腹の中に貯まったおしっこを抜いてしまいましょう」

クダを通すという意味も、おしっこを抜くという意味も、医学の知識が無い私にとっては、その厳密な意味が具体的にどうなるのかよくわからなかったが、いまはお腹の苦しみさえ無くなってくれれば、それで良かった。

要するに、おしっこが出る出口の辺りには、前立腺と呼ばれる臓器の一種があって、それがなんだかの原因で巨大化してしまって、おしっこの出口、尿道を塞いでしまっているのだ。尿道を塞がれてしまったために、おしっこは身体の中から外に排出できなくなってしまい、大量のおしっこが身体の中に閉じ込められてしまったために、お腹が苦しくなってしまったのだ。この病気のことを前立腺肥大症と呼ばれているらしかった。

看護師がカテーテルと呼ばれている細いプラスチック製の管、ゴムホースみたいなものを私の尿道に通してくれた。

「もう少し細いクダでないと通らないかもしれない」

看護師は、クダを必死で私の尿道に通そうとしながら、若い医師に言った。若い医師は、看護師からクダを受け取ると、それをちょいちょいと操作すると、私の細い尿道の中にあっという間に通してしまった。若い研修医なのかもしれないが、なかなか医療技術じゃん。先生、やるじゃんって感じだった。若い医師が、クダを私の尿道の中に通すと、クダの内側の穴を通って、私の身体の中に貯まっていたおしっこは、クダの外に流れ出てきた。と同時に、これまで苦しかったお腹の腹痛がまるでうそのようにみるみるうちにスッキリしてきた。

「なんか急にすごく元気になってきたです!」

私がベッドから起き上がって先生に伝えると、

「それはそうでしょう。ほら、2リットル以上のおしっこが身体の中にずっと貯まっていたんですから!これだけ全部外に出てきたらスッキリするでしょう!」

若い医師は、笑いながら私に身体の中から流れ出てきたおしっこが入った袋を見せてくれた。私の尿道の中を通ったクダの先っぽに、そのおしっこが貯まった半透明の袋は付いていて、クダを通して流れてきたおしっこが、その袋の中に貯まるようになっていた。

「なんか、さっきまでのお腹が痛いのがうそのようにすっかり治りました!」

私は、先生に御礼を言った。でも、もし身体の中に通っているクダを抜いたら、またおしっこは身体の中に貯まってしまう。そうすれば、また貯まったおしっこのせいでお腹は痛くなってしまう。かといって、今通してもらっている病院のクダを抜かずに、おうちに帰るわけにもいかないだろう。私は、どうしたら良いのか迷っていた。

「今日は一日泊まって様子をみて入院しましょう」

若い医師に言われた。泌尿器科の先生は、きょうは病院に来ていないらしく明日の午前中に来るのだという。だから明日までお腹の様子もみながら入院していきなさいと言うのだ。

「入院って、もうこんなに元気に治ったのに・・」

「見かけは元気でも、身体の中までなんともないかはわからないし」

このまま家に帰して、帰った後でなんかあっても責任取れない、若い医師、先生はそう言って入院の手続きをされてしまった。看護師が私の腕に点滴を付けて、点滴のぶら下がったキャスターの付いたスタンドを転がしながら、エレベーターに乗せられて上階の入院棟に移動させられた。

「なんか、もうぜんぜん元気なんですけど・・」

私は、病室に移動中、横に一緒についてくれている看護師に文句を言った。見た目的には元気に見えても、あれだけ腹痛があったのですから1日ぐらい入院して様子をみたほうが良いです。看護師にそう諭され、上階の病室に入った。

病室は、広いワンルームの部屋で、中にはベッドが4つ並べられていた。それぞれのベッドは細長い木製のキャビネットで仕切られていて、それぞれのベッドに寝ている患者さんたちのプライバシーが保たれるようになっていた。

それぞれのキャビネットの手前には、キャスター付きのデスクがあって、デスクの上にはテレビが載っかっていた。デスクの下段には小さな冷蔵庫も完備していた。テレビも、冷蔵庫もプリペイドカード式で入院棟入り口の談話室に在る自動販売機でプリペイドカードを購入して見られるようになっていた。私は、どうせ一泊しかするつもりはなかったので、テレビも冷蔵庫もプリペイドカードは購入するつもりはなかった。

一番窓側のベッドに連れていかれ、今夜は、そこで一泊することとなった。部屋には4つベッドが在るというのに、ほかの3つは空いており、今夜は、この広い部屋に私一人しか泊まらないみたいだった。

はじめての入院につづく