真夏のオーストラリア

お父さんは、キャンピングカーを走らせていた。キャンピングカーの後ろからは、正英のお母さんが運転するトラックがついてきていた。お父さんが運転するキャンピングカーのバックミラーに写る後ろのトラックの運転席に座っている正英のお母さんは、女トラック野郎という感じで、なかなかかっこ良かった。

正英のお母さんは、真っ黒のサングラスをして、慣れた手つきで、大きなトラックのハンドルを回していた。

「あと5kmか」

お母さんが運転している運転席の横、助手席に座っていた正英が、お母さんに言った。

「もうじき着くわね」

「オーストラリアに着いたら、どうするの?」

「お母さんは、お仕事よ。まず、オーストラリア支社に顔を出して、輸送先のルートとか確認してから、荷物を積み込んで、出発よ」

「そうか」

正英は、お母さんの横顔を眺めながら答えた。

「輸送中は、お母さんがトラックを移動させることになるから、あなたも、お婆ちゃんと一緒に、後ろの荷台で過ごすことになるわよ」

「うん、わかっているよ」

「どうせ、あなただって学校あるものね。後ろに置いてある学校のタブレット端末は、ちゃんと動くかしら」

「ああ、昨日、確かめた。ちゃんと動いていた」

正英は、お母さんに返事した。

「祥恵ちゃんたちは、オーストラリアの街中に行って、そこで歯医者さんを開業するんですってよ」

「うん、そう言っていた」

「祥恵ちゃんたちと別々で寂しい?」

お母さんは、運転中にチラッと真横の正英の顔を見て、聞いた。

「え、なんで?別に寂しくはないよ」

正英は、お母さんに、もしかしたら祥恵と自分が恋人同士かなにかと勘違いされているのかと思って、慌ててすぐに否定した。

「まあ、お母さんも、初日だけオーストラリア、田舎の方の輸送をしたら、後はずっとオーストラリアの都心内だけの配送業務に移動になるらしいから」

「そうなんだ」

「ええ。だから、その後はずっと基本的には、街中に停車して、そこから、オーストラリアの街中をあっちこっち配送することになると思うわ。そしたら、今井さんの車が停まっている隣りに停めましょうね」

「まあ、別にどっちでも良いけど・・」

正英は、お母さんに答えていた。

「おーい!祥恵!ゆみ!」

キャンピングカーを運転中のお父さんは、車を運転しながら、後方のベッドルームにいる祥恵とゆみのことを呼んだ。

「なんですか。祥恵も、ゆみも、今は学校の授業中ですけど」

ダイニングで家事をしていたお母さんは、お父さんに言った。

「なあに、お父さん?」

ベッドルームの扉が開いて、祥恵が顔を出す。

「お、祥恵。ちょっと、ゆみも呼んで、こっちに出て来いよ」

「なんで?今、学校の授業中なんだけど・・」

祥恵は、ゆみを呼んで、ベッドルームからダイニングの方に出てきながら、お父さんに聞いた。

「見てみろよ!まもなくオーストラリアだ!」

お父さんは、車の前方を指さしながら、祥恵たちに言った。

キャンピングカーは、地下の高速道路を走っていた。車の先に見えている高速道路の看板には、オーストラリア出口はこちらというメッセージが書かれていた。

「うわ、オーストラリアに到着するんだ!」

祥恵も、ゆみも、それにお母さんまで、車の前方を眺めていた。車は、オーストラリア出口と書かれたトンネルの中に突入すると、しばらく薄暗いトンネルの中を進んでいき、その前方に、眩しい光が見えてきた。

「あそこが出口かな」

トンネルを抜けて、眩しい光の中に突入すると、突然、目の前が開けた。どこまでも続く赤々とした砂漠と緑が広がっていた。その砂漠と緑の中、1本の道路がどこまでも繋がっていた。

「ほら、オーストラリアだ!」

皆は、オーストラリアの地下都市の風景を眺めていた。どこまでも続く砂漠と緑の中を、1本の道路がずっと続いている。その道路のうーんと先に、うっすらと高層ビルの建物群が見えていた。

「お前たち、後ろを振り返ってごらん」

お父さんに言われて、祥恵とゆみは、車が走ってきた後ろの景色を振り返った。そこには、大きな赤々とした岩の姿があった。

「エアーズロックだ!」

お父さんは、車を運転しながら、皆に答えた。

「エアーズロック」

「あれが、そうなんだ」

祥恵も、オーストラリアの写真集とか何かで見たことはあった。写真では見たことあるが、実際にこうして実物を見るのは初めてだった。

「もちろん、レプリカだけどな」

お父さんは、言った。

「レプリカ?」

「ああ、本物のわけは無いだろう。本物のエアーズロックは地上のオーストラリアにあるのだから」

「あ、そうか」

祥恵は、お父さんの言葉に納得した。

「いつかは、レプリカでなく地上の、本物のエアーズロックも見てみたいな」

「そうだな。いつか、地上のオーストラリアに行ってみよう」

お父さんは、祥恵に答えた。

「まだ、ガミラスの遊星爆弾に壊されていなければの話だけどな」

「そうだね」

祥恵は、お父さんに返事した。

「それにしても、高速道路の出入り口が、エアーズロックの真下にあるなんておもしろいね」

「そうだな。オーストラリアの人たちも、地下都市にエアーズロックを作るときに、また面白いことを考えたものだな」

お父さんは言った。

「それじゃ、今度、オーストラリアから次の国に移動するときって、あの岩の中に突入して、高速道路に乗ることになるの?」

「そういうことになるな」

お父さんは、ゆみの質問に答えた。

「最も、次の国に行くのは、まだまだ少し先のことになってしまうだろうけどな」

「そうなんだ。次の国には、しばらく移動しないんだ」

「そうだね」

お父さんは、祥恵に答えた。

「しばらく移動しないで、オーストラリアで何するの?」

「あたし、コアラちゃんと遊びたい!」

ゆみが、祥恵の質問に答えるように、はしゃいでいた。

「そうね。コアラちゃんにも会いましょうね」

お母さんが、ゆみに答えた。

「でも、ずっと遊んでばかりいるわけにもいかないからね。オーストラリアの街中に着いたら、お父さんとお母さんは、お仕事もしなくちゃ」

「そうか」

「お客さんとかいっぱい来るの?」

「ああ。オーストラリアでも、歯医者の数は少ないらしいから、大勢の患者さんが到着を待ってくれているみたいだ」

お父さんは、答えた。

キャンピングカーの後ろを走っていたトラックが、左車線に移動して、キャンピングカーのことを追い抜いていった。追い抜くときに、1回小さくクラクションを鳴らして、正英のお母さんは、こちらに挨拶をしていた。

「あれ、正英たちって、別の方角なの?」

「ああ、なんかオーストラリアの過疎地に運搬しなければならない物質があるらしい」

「そうか」

祥恵は、正英たち一家と別れ別れになるのが、少し寂しそうだった。

「でも、過疎地に物質を届け終わったら、街に来るらしいよ」

お父さんは、祥恵に答えた。

「そうなんだ」

「過疎地への運搬が終わったら、後はしばらくオーストラリアの市内で配送業務に従事するとか言っていたな」

「そしたら、また一緒になるの?」

「たぶんな」

お父さんは、祥恵に答えていた。

「良かったね、お姉ちゃん」

ゆみは、意味深に祥恵のほうを向いて、ニッコリと微笑んでみせた。

「え?そうだね。また皆で一緒に、学校の授業とか受けられるよね」

祥恵は、ゆみの頭を撫でながら、言った。

「え、それだけ?」

ゆみは、お姉ちゃんの方を見つめた。

「なにが?」

「あのね、お母さん。お姉ちゃんって、正英君のことが好きなんだよ。百合子お姉ちゃんが言っていたもの。お姉ちゃんと正英君って、いつも一緒に仲が良いんですって」

ゆみは、お母さんに言った。

「何を言っているのよ。別に、そういうんじゃないよ。ただ、正英とは、同じバスケ部同士だから、一緒にいる機会が多いだけよ」

祥恵は、少し頬を赤らませながら、ゆみに答えていた。

「あら、別に良いんじゃない」

お母さんは、祥恵に答えた。

「正英君。なかなかスタイルも良くて格好いい青年だし、頭も良さそうだし、何より、とても優しくて、人の面倒見もいい子だしね」

お母さんは、祥恵の方を見た。

「お母さんも、祥恵が、正英君みたいな子とお付きあいしてくれたら、とても嬉しいな」

「いや、だから別にそういうのじゃないから」

祥恵は、お母さんの言葉に向きになっていた。


真夏のオーストラリア
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